営業マネージャーをはじめとする管理者に求められる仕事に、「考える」というものがあります。しかし、「人を教える」という仕事と共に私たちの多くは「考える」という仕事のやり方を誰かに教えてもらったことはなく、また「考える」という仕事そのものが存在している、ということを意識していない人も多くいます。
しかし、営業マネージャーをはじめとする管理者には間違いなく「考える」という仕事が常に存在しています。そして、管理者であるからにはその仕事から逃れることはできず、苦手だからと言って放棄することもできません。「考える」ということの原則論から理解し、「考える」という仕事をできるようにしていきましょう。
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1.「考える」仕事とは何なのか?
ではそもそも「考える」という仕事は何なのでしょうか?ここでは「考える」という仕事そのものについて、いくつかの項目を取り上げていきます。
1-1.2つの「考える」仕事
「考える」というテーマについて記載をしていくにあたり、まずは「考える」という仕事には2つあるということを定義したいと思います。考える仕事の1つ目は「未来を想像する仕事」、2つ目は「人の気持ちを想像する仕事」です。
営業マネージャーをはじめとする管理者には、あらゆる場面において、未来を想像することや人の気持ちを想像することが求められます。ここからは、主に1つ目の未来を想像すること、について触れていき、人の気持ちを想像することは、後述の3で触れていきたいと思います。
ここで言う「未来」とは、ある人にとっては10年後(ビジョン思考)ある人にとっては5年後(戦略的思考)、ある人にとっては1年後(目標設定思考、課題解決思考等)、ある人にとっては1か後、1週間後、1日後(明日)、1時間後だったりします。また、経営者は10年後のビジョンをどうするかを考える時もあれば、1時間後の商談がどうしたらうまくいくかのを考える時もあり、役割や場面によって、想像する未来の時間軸も様々になります。どの時間軸でも、未来を想像する仕事はすべて「考える」仕事と呼ぶことができます。
そして、実際の未来を作っていくことは、考えたことを実行する具体的な行動であると言うことができます。しかし、具体的な行動をするためには、未来を想像する(考える)というプロセスが具体的な行動をする前に必要です。
1-2.「考える」とは勉強することではない
考えることが未来を想像すること、という定義なのであれば、考えることは勉強することとは違うことになります。勉強するとは、過去に誰かが考えて明文化されていることや取りまとめていることを知識として得ることであり、それそのものは未来を想像することではありません。
私たちは学校でたくさん勉強をしますが、それはほぼすべて答えがあるものであり、テストも誰かが作って答えがあるものに対して回答しているものになります。この点からも、私たちは学校では勉強はしていた(させられていた?)かもしれませんが、考えることはあまり行っていません。
しかし、効果的な考える仕事をすることにおいて勉強することはとても重要です。過去の知識を広く深く得ることは、未来を想像するにおいて必要な材料であり、勉強を多く行うことは考えることにおいて有効にはたらくことは間違いありません。
1-3.「考える」とは過去を分析することや反省することではない
これも考えることが未来を想像すること、という定義なのであれば、過去を分析することや、それを基に反省することもまた考えることではありません。考える仕事をしなければいけない時に、過去の分析ばかり行う人がいます。もちろん未来を想像することにおいて過去を分析することは必要なことなのですが、分析だけに留まって未来を想像しないことは考えていることになっていません。これは、「経理」と「財務」の違いとしてもよく用いられることであり、経理は過去の記録や分析であることに対し、財務とは経理業務で記録をされたことも活用し、お金の観点から未来を想像する仕事になります。
また、これは管理者に限らずの話ですが、起きたことに対して反省はしますがその反省を次に活かすことを考える(すなわち1度した失敗やそれから想定される類似する失敗を繰り返さないために、どうすればいいのか未来を想像する)ことをあまり行わない人もいます。起きたことを振り返らない、反省しないよりはまだ良いかもしれませんが、管理者の仕事としては不足感がある状態になります。
もちろん過去の分析や反省も、前項の勉強することと同様に質の高い考える仕事をするためには行わなければいけないことです。しかし、営業マネージャーをはじめとする管理者は、過去の分析だけを行って問題や課題の特定を行っているだけで満足してはいけません。それをどうしたら解決できるのだろうか?と考え、過去の分析や反省を未来に活かしていかなければなりません。
1-4.「考える」ことは仕事である
考えることは営業マネージャーをはじめとする管理者にとっての重要な仕事であり、この概念はとても重要です。考えることが仕事であるということは、考えることは業務時間中に行ってもよいということです。周囲の人が忙しく動いて仕事をしている中で、1人だけ机に座って考えていてもよいのです(もちろんその環境が考えるにあたって集中できる最適な環境なのか?という議論はあるとは思いますが)。忙しく動いていないと仕事をした気になれない、考えることを業務時間中に社内で行うことが申し訳ないように思う、という人は今すぐその考え方を変えてください。
管理者であるあなたが未来を想像し、会社の中で将来起きうる問題を事前に無くしたり、目標達成のための課題を具体的に解決するための有効な施策を打ち出すことを多くの人が待っています。もっと簡単に言うとあなたが本来の仕事をすることを周りの人はみな待っているのです。
管理者であるあなた以外の人でも十分行うことができる作業に時間を費やし、本来行うべき未来を想像する仕事を行わないことは避けなければなりません。考えることは営業マネージャーをはじめとする管理者の「仕事」なのです。
1-5.「考える」ことそのものは行動である
考えることそのものは行動です。ですので「考える」ということには、「○○というテーマについて週に何時間考える」というように時間設定による行動目標をつけることもできます。
考えたからといって、良い結論が得られるとは限りません。しかし、考えるという行動はしたので、その結果がどうだったのか?結果が思わしくないのであれば何を改善すればいいのか?という進捗管理には持ち込むことができます。これは、お客様のところに週6件は訪問した、だけど売れなかった、という状態と同じです。行動はしているので進捗管理をすることができます。訪問する量が少ないか、訪問する先が悪いか、訪問している時のトークが悪いか、など改善ポイントはいくつも考えられます。考えることもそれと同じに扱うことができます。
考えるということに対してあまりピンとこない人、イメージできないという人はまずは行動目標をつけて(時間設定が最も分かりやすいです)、行動として取り扱っていくことが良いです。これは、営業部に配属された新人には最初は結果は求めず、コール件数や訪問件数の数を求めることと一緒です。
行動はせずに結果だけを追い求めると、どの仕事でも同様ですが、一時的にはラッキーパンチもあり得るかもしれませんが、継続的に安定した成果を出していくことは難しくなります。これは考える仕事でも同様で、たまたま思いついた案が当たることもありますが、継続して有効な策を立案していくことは、考えるという行動を積み重ね、トレーニングをしていく必要があります。
1-6.「考える」とは頭を使うことである
考えることは頭を使って行うことです。では、考えることの反対は何でしょうか?体を使うことだと思われるかもしれませんが、実はそうではありません。これは多くの研究や文献などが教えていることですが、考えることと体を使うことは一体であるとされています。生産性の高い考える仕事をしたいのならば、体を動かした方が良いのです。もちろん、思考が回らなくなるくらいのハードな運動はダメですが、軽いストレッチをしながら考える、社内や社外を散歩しながら考える、身振り手振りを交えて考える(周りから見ると結構怪しい人に見られるのですが・・・)など、体を動かして頭をはたらきやすくすることが考える仕事の生産性を高めるコツになります。
考える仕事をしようとして、机に座ってパソコンに向き合いじっと動かない人がいますが、これは考える仕事ができる体勢ではありません。体が動かないので頭が働かず、よいアイディアが浮かばないのです。後述しますが、考えたことを図化したり明文化したりするためにはパソコンに向かって作業をしなければいけなくなりますが、考える仕事そのものをする時は体は自由度を持っていた方が良いのです。
営業マネージャーをはじめとする管理者は考えることが仕事の1つです。自らの頭(脳)がどうしたら有効に働くようにできているのか、脳科学の専門家になる必要はありませんが、その基本的なことは知っていると、考える仕事の精度を高めることに役立ちます。
1-7.考えることが先か、行動が先か
「考えてばかりいないで行動しなさい」「やってみなければ分からない。まずは行動しよう」などという言葉を聞くことがあります。
しかし、営業マネージャーをはじめとする管理者には確実に次のことが言えます。それは「考える(未来を想像する)ことが先、行動が後」です。営業マネージャーをはじめとする管理者は、行動をしたことによる失敗経験・学習経験は一般的には既に積んできています。管理者にはもう既に練習という場面はなく、すべてが本番です。本番は成功する方が良いに決まっています。もちろん成功しようと本番に臨み、それでもうまくいかないことはあります。しかしそれは練習で起こした失敗とは明らかに異なるものです。成功する可能性を限りなく高めるため、行動する前に多くのことを考える必要があります。
また、営業マネージャーをはじめとする管理者が取り扱うテーマは、関わる人数や金額の規模的な観点からも、影響力が大きい仕事が数多くあります。「やってみなければ分からない」では済まされないことがほとんどなのです。
2.「考える」という仕事と他の管理者の仕事と役割の関係性
考える仕事は、営業マネージャーをはじめとする管理者の重要な仕事の1つですが、他の管理者の仕事と役割とも密接に関係しています。ここでは他の仕事と役割との関わりを見ていきたいと思います。
2-1.経営者理解と考える仕事
ここまで何度も記載をしていますが、営業マネージャーをはじめとする管理者のまず最初の仕事と役割は経営者理解です。では、経営者理解と考える仕事との関係性はどうでしょうか?
経営者理解、すなわち経営理念やビジョンを理解するということになりますが、「理解する」ということは、もう既に存在しているものをよく知るという意味が含まれているので、これは考える仕事ではなく、どちらかというと勉強や分析に近い内容であると言うことができます。
すなわち経営理念やビジョンは、明文化されているかどうかは別にして、経営者や経営陣が既に持っているものです。それをよく理解することは、経営者理解に続く仕事や役割を十分に果たしたり、何かを考える中で絶対に必要な材料になります。
2-2.経営戦略理解と考える仕事
経営戦略理解は3年~5年の方向性を理解するということになりますが、「経営戦略理解」ということであれば、もう既に立案されている経営戦略をよく理解するということになりますので、経営者理解に近いと言えます。
しかし、営業マネージャーをはじめとする管理者であるならば、この経営戦略立案には、ぜひ経営者・経営陣と共に戦略立案メンバーに加わってほしいと思います。そのためには、3年~5年先の未来を想像するための「戦略的思考」が必要です。
戦略的思考で大きく求められることは2つです。1つ目はビジョンと現実の整合性です。ビジョンを意識するあまり実現可能性のない戦略を打ち出すことはNGであり、しかし現実を見るあまりビジョンの達成に近づかない戦略は、そもそも戦略と呼びません。
2つ目は、1つ目のビジョンと現実の整合性を取るために必要なものでもありますが、5年後までの外部要因の知識量と想像力です。5年という期間は自社の強みをさらに強くし弱みを克服すればいいかと言うとそうではありません。外部要因がどう変化するのかをたくさん想像し、自社を正しい方向に導いていくことが求められます。ぜひ営業マネージャーをはじめとする管理者の皆さまにはこの経営戦略立案に携われるよう、考える(未来を想像する)という仕事のスキルを高めていってほしいと思います。
2-3.目標設定と考える仕事
単年の目標設定を考える、という領域からは営業マネージャーをはじめとする管理者あるいは管理者候補の人が誰でも考える仕事をすることが求められていきます。
有効な目標設定を考えるためには、「目標設定思考」という考え方が必要です。成り行きはNGである、しかしエベレスト的もNGである。組織や個人に対して成長を促すものでなければならない、しかし到達可能でなければならない。この感覚やバランスが要求される考え方ができなければいけません。
この後の計画立案でも記載をしますが、現在広く「考える技術」として知られている論理的思考や課題解決思考などと呼ばれているものは、そのほとんどが計画立案や進捗管理の場面で活用されるものです。しかし、計画立案や進捗管理は何を基にして行われているのかというと目標設定を基準にして行われます。目標設定がある程度定まらなければ計画立案に進むことができません。
計画立案、その中でも特に大切な課題解決については膨大な量の考察を行わなければなりません。1つ1つの課題をすべて細部まで検討し、それを基に実行するかしないのかを決めていては時間が足りなくなります。目標設定思考は、ある程度アバウトな状態で、「おそらく目標設定はこれくらいでも達成可能だろう」「過去の実績からまずはこの数字を目標として計画を考えてみよう」というように、1つ1つを細かく考えなくてもいいように、すなわち計画立案で無駄なことを考えず効率的に行うことができるようにするための考え方と言うこともできます。
目標設定がアバウトでも設定されるので、計画立案を始めることができるのです。これを逆にしてしまう、すなわち計画立案から行ってしまうと、それは今できることの積み上げとなり、目標設定の原則が守られていない目標が作られてしまいます。
目標設定にはある程度のアバウトさ、具体策は今は分からないがここまでは達成できるだろう、という感覚的なものが求められます。これが目標設定思考においてとても大切なことであり、その精度は繰り返し目標設定を行うことによって、高めていかなければいけません。
2-4.計画立案と考える仕事
計画立案は、そのすべてが「考える」仕事です。そして、前述にもある論理的思考、課題解決思考などの考える技術の多くのものが、この計画立案を行うために使われるため、「考える」ということがこの計画立案の部分にフォーカスされることも少なくありません。
しかし、営業マネージャーの仕事と役割でもずっと触れてきましたが、計画立案は目標設定がなければ発生すらしないし、その目標設定を辿っていけば経営理念やビジョンに行き着きます。課題解決思考や論理的思考というのはとても重要なのですが、営業マネージャーをはじめとする管理者に求めらる「考える」仕事を十分に行うためには、この計画立案にのみ活かすことができる考える技術を身につけているだけでは不足することになります。
計画立案の中でも特に大切なことの1つは課題解決です。課題とは、例えば1年後に目標達成できていない時に起きている問題のことであり、その問題が起きてもいないうちからこのまま進んだらその問題が起きるであろうことを予測し、そしてその問題が起きないように解決策を打っていく、ということが課題解決です。この仕事すべてが未来を想像することであり、すなわち考える仕事であるということです。
営業マネージャーをはじめとする管理者は、想像の世界ではたくさん失敗してかまいません。しかし、現実の世界では失敗は極力避けなければなりません。しかし、どんなに想像力を働かせても予期せぬことが起き、望んでもいない失敗をすることもあります。想像の世界では成功することをイメージしきって実行に移すからこそ、うまくいかなかった時の落胆や失望は大きくなるものです。そしてその落胆や失望を受け入れ、また計画立案から全力で立ち向かうことにより、計画立案の力、考える力が鍛えられていくのです。
2-5.進捗管理と考える仕事
進捗管理は、現状認識(過去の分析)と計画修正(短期間ではあるが未来を想像すること)が一緒に出てくる仕事です。現状認識だけで終わって未来を想像することをしない、すなわち「数字が足りないから頑張ろう」などと言っていては、営業マネージャーをはじめとする管理者が考える仕事を行っているとは言えません。
さらに、進捗管理は時間がないことが多いので、管理者には考えるスピード、瞬発力も求められてきます。繰り返し考え、そしてスピードを意識して考えることにより、同じことを考えるにもそのスピードを上げていくことが必要です。
3.人の気持ちを想像する仕事
前述にもあるように考える仕事には2つあり、「未来を想像する仕事」と「人の気持ちを想像する仕事」です。
3-1.人の気持ちを想像するとは?
人の気持ちを想像することそのものはそれほど難しくはありません。例えば「この人はいま何を考えているのだろう?」「この人はいまどのように感じているのだろう?」と考えてみることです。
では、このような場合はどうでしょうか?「東京23区に住む20代の独身の男性は、どのような服を着たいと思っているんだろう?」これは、都心に住む20代男性をターゲットにしたアパレルメーカーのマーケティングと呼ばれるものになります。「マーケティング」と言われると一気に格式が上がりますが、平たく言うとターゲットとしている層が共通して何を考えているかを想像する活動と言うことができます。
では、これはどうでしょうか?「部下であるA君を仕事に対してモチベーションを持たせるために、どのような言葉をかけるべきだろう?」人を教えることにおいて重要項目の1つである動機づけには、相手の気持ちを想像してどのような言葉をかけたり、行動して見せたりすることがいいのか?ということ考えることが数多く発生します。このようなことから、人の気持ちを想像することはやはり管理者にとってとても重要な仕事なのです。
3-2.人の気持ちを想像することを教わっているのか?
「人を教える」のパートでも書きましたが、私たちは人の気持ちを想像する、ということについて、ほとんどの人が十分に教えてもらったことがありません。実は、人の気持ちを想像しなさいという教育は幼稚園・保育園ではあります。園児どうしが物の取り合いをしたりけんかをしたりした時に、先生が「○○ちゃんはいまどんな気持ちだと思う?」というように質問したりすることはよく見られます。しかし、このような教育も小学校にあがるとほとんど無くなるように思います。
そして、人の気持ちを想像するということにおいてよく聞かれるものの1つに、「自分がされて嫌だと思うことは相手にしないように」というものがありますが、これはよくよく見ると間違っているとも言えます。正しくは「相手がされて嫌だと思うことは相手にはしない」のはずです。自分が欲しくなくても市場で大ヒットしている商品・サービスはたくさんあります。自分が欲しくないからと言ってその商品・サービスをリリースしないのであれば、それは大きな収益の機会を逃すことになります。
このようなことを見ても、人の気持ちを想像するということについても、私たちの多くは十分な教育を受けていないし、あったとしても決して正しい教育を受けているとも言えません。しかし、管理者にとってこの仕事はとても重要であることは間違いなく、今からでも平均点以上はできるようにする必要があります。
3-3.人を教える仕事と人の気持ちを想像する仕事
人を教える仕事は営業マネージャーをはじめとする管理者の逃れることができない重要な仕事ですが、この仕事は人の気持ちを想像する仕事と常に隣り合わせです。人を教える、のパートでも数多く書きましたが、管理者が教えなければいけないのは機械ではなく人です。人は心や気持ちを持っています。同じ仕事をするにしても、気分の良し悪しで成果は2倍にもなるし半分にもなります。
「昨日はこのような成果だったので、今日はどのような気持ちなのだろうか?」「今日の朝はこのようなことを言っていたが、何を考えて言ったのだろうか?」「明日の会議で何と言葉をかけたら、最もモチベーションが上がるのだろうか?」管理者が人に関わることを考える時、考えることはとても多くなります。機械はボタンを押せば動きますが、人を動かすにはその過程がとても複雑です。スキルや技術を伝えるだけでは人は動きません。人を動かすには、その心や気持ちにも働きかける必要があります。
しかし、これも人を教える、のパートでも書きましたが、人は根本ではある程度共通の性質も持っています。「人に感謝されたら嬉しい」「今よりも少しでも良くなりたい」などは、多くの人が持つ代表的な共通の想いです。このような気持ちは持っているということを軸にして、管理者としてメンバーや部下の目標達成や育成にあきらめずに取り組んでいけば、必ず道を切り開くことができます。
4.考えるという仕事をできるようになるために
「考える」仕事は、営業マネージャーをはじめとする管理者にとって重要な仕事です。管理者の仕事は多岐に渡りますが、今までも書いてきたように、管理者は与えられている役割から逃げてはいけません。考えるということを仕事であるとして受け入れ、苦手であれば少なくとも平均レベルまではできるようにしなければいけません。
しかし、そうは言っても私たちは体系的に「考える」という仕事を学ぶことは難しい状況にもあります。そのような中でどのようにしたら考える仕事を身につけていくことができるのかを記載していきます。
4-1.考える時間を自分との約束としてスケジュールに組み込む
考えることを身につけていくためには、考えることを行動として取り扱っていきます。まずは量を行い、その後に質を高めていくことがオーソドックスな方法です。
考えることを仕事として捉え、自分との約束としてスケジュールに書き込み、考えるという行動をしていきます。何を考えればいいのか?と思われるかもしれませんが、考えるテーマは管理者は数多く持っています。「どうしたら今月や来月の目標が達成できるのか?」「どうしたら部下に上手に仕事を教えられるのか?」など、管理者は考えるテーマは尽きることはありません。
4-2.考えることに行動目標(時間)を設定する
それでもなかなか考えることの時間がなかったり、考えることの優先順位が上がらないというのであれば(考えることの優先順位が上がらない、というのは本来はおかしいのですが)、考えることに行動目標を設定するという方法もあります。1週間に4時間は考える時間を確保する、などと決めその行動を積み重ねられるように取り組んでいきます。
4時間考えたからといって何か良い案や結論が得られるとは限りませんが、しかし4時間考えたという行動はするので、その良し悪しと改善策を考える進捗管理には持ち込むことができます。得体のしれない考えるという仕事を前に進ませることはできるのです。考えることに対して習熟していないのであれば、何はさておきまずは量です。量を行えば、質は後からついてくるようになります。
4-3.知識をたくさん得ること
考えることは未来を想像すること、人の気持ちを想像すること、という定義から勉強して知識を得ることは考えることとは異なると記載をしました。しかし、考える仕事をするにあたって、過去に起きたこと、社内外であったことをどれだけ知っているかは大きな助けになります。
知識をたくさん得ることは考える仕事の質を高めるためにとても重要です。そして、考えるために活用する知識を得る有効な方法は、1つのことを深く追求することもよいのですが、それと共に広い分野の知識を浅く広く知ることもとても大切です。管理者は考えなければいけないテーマも多岐に渡ります。一見関係ないと思われるような知識でも計画を作る時に大いに参考になったりするときがあります。分野を問わず広く浅く興味を持ち知識を得る習慣を持つことは、管理者の考える仕事において必ずプラスに働きます。
4-4.帰納的な考え方を身につける
前述もしましたが、一般的に知られる考える技術には「論理的思考」「課題解決思考」などというものがあります。これらを体系的に学び身につけることは管理者の仕事をすることにおいて大きな武器になりますが、多くの時間と決して安くない費用もかかることになります。
これらのものが教えている考え方の中で、素早く理解できてかつ日常業務で活用できる頻度が高いものに、「帰納的な考え方」というものがあります。それ以外にも数多くの考える方法があるのですがこの帰納的な考え方1つができるだけでも、多くの問題や課題の解決を行うことができる、それくらい威力のある考え方になります。
「帰納的な考え方」とは、1つあるいは2つなどの個別に起きた問題や課題から、その上位にある共通点を見出し、同様の性質を持つ問題や課題を1度に解決をしていく、という考え方です。「一事が万事」ということわざもあります。1つ起きたことは類似することがたくさん起きており、それを1つ1つ個別で対応していては時間がいくらあっても足りません。共通する根本の部分を1回直すことにより多くの問題や課題を1度に解決することができます。
例えば、A君はお客様に依頼された見積もり提出をせずにクレームを受けました。また、ある日には社内会議で提出をすべき宿題を忘れてしまい会議の時間を有意義なものとすることができませんでした。これを解決するために、お客様に謝罪をさせてあらためて見積もりを出し直したり、会議の日を再度設けてそれまでに宿題を出すように指導するだけでよいのでしょうか?
そうすれば見積もりや宿題の提出はできるでしょう。しかしA君は次は取引先に電話をして必要な資材を発注することを忘れてしまう可能性があります。
なぜなら、これらの事象で共通することとして、A君はタスク管理ができていないのです。タスク管理の方法を正しくしない限り、タスク管理ができていないことによる問題は無くなることはありません。管理者として帰納的な考え方を働かせ、お客様の見積もり提出忘れと会議の宿題提出忘れからタスク管理ができていないという共通点を素早く見出し、それを解決することにより、その後に起こる類似する問題をすべて無くすことができます。
何かの問題や課題が起きた時に、「他に同じような問題や課題は起きていないのか?」「それらを1度に解決するにはどうしたらいいのか?」この帰納的な考え方をするようにするだけで、管理者は多くの時間と労力を削減することができます。
4-5.ついでに考える技術を身に着ける
考えることと体を動かすことは一体である、考えるときは体を動かすことが重要と記載しました。私たちは1日の生活の中で、実は頭をはたらかせて考えることができる時間を多く持っています。歩いている時、電車に乗っている時、食事をしている時、歯を磨いている時、お風呂に入っている時、布団に入って寝ようとしている時、休みの日にぼーっとしている時、などなどです。
そんな時まで仕事のことを考えたくないと言われればそれまでですが、管理者は頭を使って仕事をする必要があり、その頭が回転する時は机に向かってじっとしている時ではなく、上記のように適度に体を動かしたり自由度を持ってリラックスしている時なのです。管理者として考える仕事をできるようになるためには、ぜひついでに考える習慣を身につけるとよいでしょう。
4-6.考えたことを人に伝える
営業マネージャーをはじめとする管理者は考えることが仕事なのですが、考えたことを自分1人だけで持っていればいいかというとそうではありません。自らが考えたことを何かしら表現して、他者に伝える必要が出てきます。その時は、口頭のみの伝達では不十分で、自らの考えたことを伝えるには、図化する(絵を描く)ことや明文化することが必要です。特に図化すること(絵を描く)ことは重要で、文字情報だけでは到底伝達できない内容でも、絵を使えば一瞬で考えたていることが伝達することができます。
絵を描くということが得意な人は多くありません。上手に絵が描けずに結局うまく考えが伝えられないということも多く見られます。しかし、今はインターネットが発達しています。課題や問題に直面したら外部に答えを求めるのです。インターネットで画像検索すると、考え方を表現するフロー図、チャート図、マトリクスなど、表現方法がの多くが無料で活用可能な状態で落ちています。これらの画像を有効活用することにより、素人でもある程度の図化の技術や手段を手に入れることができます。
5.まとめ
考える仕事は営業マネージャーをはじめとする管理者にとってとても重要です。そして、会社の役職というものは未来を想像して考える期間の長い順となっています。年齢順でも社歴順でもありません。すなわち、報酬についても未来を考える仕事に取り組み、成果を出していく順番であると言えます。
報酬を高くしたいと思うのであれば、たくさん未来のことを考えるべきです。考える仕事が初めから得意な人などいません。管理者として考える仕事ができるようになるために、たくさん考え、たくさん勉強し、たくさん行動し、たくさん成功と失敗を繰り返し、またたくさん考えるということを繰り返していくしかありません。あきらめずに考えることに取り組めば、いつかは必ず考える仕事ができるようになるはずです。